第10回: ROM
ここまで2回にわたってみてきたSRAM, DRAMは、いずれも
電源を切ると記憶内容が消えてしまう、いわゆる揮発性の
メモリでした。
コンピュータの構成要素としては、電源を切っても記憶内容が消えない、
いわゆる不揮発性のメモリが必須となります。
そこで今回は、不揮発性のメモリをいくつか見ていくことにしましょう。
なお、不揮発性メモリのことを、一般にROM (Read Only Memory)と呼びますが、
後述のように、書き換えが可能な(つまりread onlyではない)ROMも、
ROMと呼ばれることが多くあります。
すなわち、ROM=不揮発性メモリ、と呼ばれるのが一般的のようです。
マスクROM(p.80)
一度作ってしまったら内容を書き換えないようなメモリ内容で
あれば、 LSIを作るときに、回路として記憶内容を作りこんで
おく方法があります。
これは、LSIを作るときの露光マスクの段階で記憶内容を
決めておくので、 マスクROMと呼ばれます。動作原理から、
大きく次の3つの方法がありますが、いずれも回路として
1か0の値を記憶させておく方法です。
まずデータ線Djをプリチャージし、その後選択した行アドレスで
読み出し対象のワード線を1にし、データ線Djが放電される('0')か
放電されない('1')か、によって0か1を読み出すわけです。
これらの3種類の構成のマスクROMは、いずれも 0を記憶している
状態(上側のWLi)と 1を記憶している状態(上側のWLi+1)が
示されていますが、それぞれトランジスタの有無、
トランジスタのしきい値、コンタクトの有無で 0と1が記憶されています。
この3種類を、集積度の面で比べてみると、データ線とメモリセルを
つなぐためのコンタクトホールは、 (a)と(b)では2ビットあたりで
1個必要ですが、 (c)では1ビットあたりで1個必要であるため、
(c)は集積度が下がってしまうという欠点はあります。
この考え方をさらに進めると、複数のトランジスタでコンタクトを使わずに並べてしまう、いわゆるNAND型のマスクROMを作ることができます。これは、N個の値を記憶しておくトランジスタと、これらをまとめて選択する1個トランジスタからなります。このうち、値を記憶しておくトランジスタでは、それぞれに記憶するべき値に応じて、しきい値を正にする('1')か負にする('0')か、をトランジスタを作るときのイオン打ち込みの段階で決めておきます。
読み出し時には、データ線Djをプリチャージした後で、N本の
ワード線を、読み出し対象のワード線のみを0に、他をすべて1とした
状態で、ブロック選択線を1にしてみると、読み出し対象の
メモリセルのトランジスタ以外はすべてONになります。
このとき、読み出し対象のメモリセルのトランジスタのしきい値が
負であればこのトランジスタもONですから、データ線Djは
放電されて0になりますが、しきい値が正であれば、
このトランジスタはOFFですから、データ線Djは放電されずに
1となるわけで、結果として読み出し対象のメモリセルの値が
読み出せたことになります。
このような、いわゆるNAND型のマスクROMは、N個のトランジスタを
コンタクトなしに並べられますから、集積度を非常に高くできます。
ただし読み出し時にN個のトランジスタの直列抵抗でデータ線Djの
電荷を放電することになりますから、読み出し速度が
遅くなってしまうという欠点もあります。
プログラマブルROM(p.81)
前述のマスクROMは、記憶する情報を回路として作りこんでしまいますから、
あとから値を変更することはできません。
これは、メリットでもありますが、デメリットでもあります。
そこで、製造後に、記憶する情報を書き込むことができる、
プログラマブルROM (Programmable ROM; PROM)が
考えられました。
初期のPROMは、アルミの配線を選択的に焼き切る、などの方法で
情報を書き込むため、書き換えは不可能でした。
(「VLSI工学-基礎・設計編-」(岩田、コロナ社)p.82より)
そこで、上の図のように、MOSトランジスタの、チャネルとゲート電極の
間に、浮いている電極(浮遊ゲート: Floating Gate; FG)を作りこみ、
ここに電荷を蓄えたり、逃がしたりすることで
データの書き込みと消去の両方ができるような不揮発性メモリ
(Erasable PROM; EPROM)が考案されました。
浮遊ゲートに電荷があると、MOSトランジスタをONにするために、
ゲートにより高い電圧を加える必要がある、すなわち
しきい値が高くなります。
そこでマスクROMと同じような構成で、浮遊ゲートを持つ
1つのMOSトランジスタからなるメモリセルが記憶している1ビットの
情報を読み出すことができることになります。
書き込み、すなわち浮遊ゲートへの電子の注入は、
S-D間に高い電圧を加え、ドレイン接合部分での電子なだれ現象、
またはホットエレクトロンと呼ばれるエネルギーの高い電子によって
行います。
また消去は、紫外線を与えて、浮遊ゲート内の電子を
チャネル領域に逃がすことで行います。
(そのため、このタイプのEPROMをUV-EPROMと呼ぶ)
浮遊ゲートにたまった電子は、10年程度は保持されます。
(ちなみに、昔のファミコンの頃は、数が出る人気ゲームはマスクROMで、
数がでない、いわゆるクソゲーはEPROMが使われていたようです)
このUV-EPROMは、消去のために紫外線をあてなければならない、
という欠点があります。
そこで、消去も電気的に行うことができるようにした、
EEPROM (Electrically EPROM)が考案されました。
これは、浮遊ゲートとドレイン領域の間の酸化膜を
10nm程度と非常に薄くし、ゲートに10V程度の高い電圧を
加えることで、この部分に、量子現象であるトンネル現象によって
電子を注入したり逃がしたりすることができるようにしたものです。
フラッシュメモリ(p.82)
(「VLSI工学-基礎・設計編-」(岩田、コロナ社)p.83より)
大容量化を目指してEEPROMの構成を改良したものが、
いわゆるフラッシュメモリです。
最近はUSB接続型のPCの外部記憶装置や、デジカメ等の
データ記憶用のメモリカードの代名詞としても知られています。
フラッシュメモリは、EEPROMで必要だった選択トランジスタを、
複数の浮遊ゲートMOSトランジスタでまとめたものです。
これにより、1ビットごとの独立した書き込み・消去は
できなくなりますが、1ビットが1つの浮遊ゲートMOSトランジスタで
構成できるため、大容量化に向いています。
消去は、1ビットごとではなくて何ビットかまとめて行わなければ
ならないことから、フラッシュ(flash)メモリ、と呼ばれます。
フラッシュメモリの構成には、大きく分けてNOR型とNAND型が
ありますが、一般にNOR型のほうが高速・低密度、
NAND型のほうが低速・高密度となります。
その他の不揮発性メモリ
近年はフラッシュメモリに代わる不揮発性メモリの研究開発も
盛んで、主に次のようなものが、次世代の不揮発性メモリを狙って
研究開発が進められています。
- FeRAM (強誘電体メモリ)
- PRAM (相変化メモリ)
- MRAM (磁気メモリ)
- RRAM (抵抗メモリ)
※配布資料(第9回・第10回)は第9回資料からダウンロードできます
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