第1回: オペアンプ(その1)
入力を大きくして出力する増幅器(amplifier; アンプ)のうち、
応用範囲がかなり広い「オペアンプ」と呼ばれるものを
見ていくことにしましょう。
理想オペアンプ
唐突ですが、次のような特性を持つ増幅器を仮定しましょう。
- 2つの入力端子("+", "-")と1つの出力端子をもつ
- 2つの入力端子の「差」を増幅して出力とする
つまりこの図でいうと、2つの入力端子の電圧V+, V-に対して、
出力端子の電圧Voが、増幅する割合(増幅率)をAとして、
次のように決まる増幅器、というわけです。
このような増幅器を、演算増幅器(operational amplifier; オペアンプ)と
呼びます。
ここで、さらに、次のような特性を仮定することにします。
- 増幅率Aは無限大(∞)
- 2つの入力端子に電流は流れない
- 出力端子から流れる電流に制限がない
- どのような周波数の信号でも、同じように増幅する
なんだかとても非現実的な仮定のように見えますが、
後に触れるように、実は現実的な特徴なので、
このような仮定をする、ある意味「理想的」なオペアンプを、
しばらくは考えていくことにします。
実はこの仮定から、オペアンプの大切な性質が導かれます。
それは「常にV+=V-」となるというものです。
なぜならば、仮に「V+とV-が等しくない」とすると、
Vo = A(V+ - V-)で、V+ - V-はゼロではありませんから、
A=∞という性質から、Voも無限大となってしまいます。
ところが増幅器ではVo=∞というのはありえない(はず)なので、
この前提が間違っていた、つまりV+=V-である、というわけです。
(いわゆる背理法)
ナレータとノレータ
このような理想オペアンプを含む回路の特性を考えるときに、
次のような2つの仮想的な素子を考えるととても楽ですので
紹介しておきましょう。
1つは「ナレータ」と呼ばれるもので、
両端の電圧が常にゼロで、流れる電流も常にゼロとなる、という素子です。
もう1つは、名前が似ているのですが「ノレータ」と呼ばれるもので、
逆に両端の電圧も流れる電流も、いくらでもかまいません。
このナレータとノレータは、抵抗に似ているようが気がするかもしれませんが、
抵抗だと、常にV=IRという関係がありますので、
常に電流が流れないナレータは、R=∞のはずですが、
両端の電圧がつねにゼロですから、抵抗ではありません。
逆にノレータも、両端電圧と流れる電流が、両方ともどのような値でも
よいので、R=V/Iが一定とならず、やはり普通の抵抗ではありません。
このようなナレータとノレータを使うと、理想オペアンプの中身は
次のように考えればよいでしょう。
つまり2つの入力端子に電圧差がなくて電流が流れないことを
ナレータであらわし、出力の電圧や電流が好きに決まることを
ノレータであらわしているわけです。
この理想オペアンプの中身の回路(等価回路)は、
後で使うことにしましょう。
反転増幅回路
オペアンプを使った最も基本的な回路は次のようなものです。
+側の入力を基準電圧(0V)に固定し、
入力電圧Viを、抵抗R1を通して-側の入力へつなぎます。
そしてその-側の入力が、抵抗R2を通して出力につながっていて、
そこの電圧をVoとします。
このような回路の、入力Viと出力Voの関係(特性)を求めてみます。
まず理想オペアンプという仮定から、-側の電圧V'は、+側の電圧(=0V)と
等しくなります。
したがて抵抗R1の両端電圧はViですので、そこに流れる電流は
Vi/R1となります。
ところが理想オペアンプの入力端子には電流が流れませんから、
この電流はすべてそのまま抵抗R2に流れていきます。
すると抵抗R2の両端の電圧は、「この流れる電流」×R2、
つまり(R2/R2)Viとなりますが、抵抗R2の左側の電圧が0Vですから、
右側の電圧は、0-(R2/R1)Vi=-(R2/R1)Viとなりますが、これは
出力電圧Voそのものです。
つまり次のような関係ということになります。
このように、この回路の出力は、入力をR2/R1倍に増幅し、
かつ符号が逆になりますので、反転増幅回路と呼ばれます
この反転増幅回路は非常に応用範囲が広いので、また後で
触れることにしましょう。
非反転増幅回路
オペアンプを使ったもう1つの基本的な回路は次のような回路です。
これも同じようにVoとViの関係を求めてみましょう。
今度は、+側の電圧V'が、VoをR1とR2で分圧したものになっています。
つまりV' = (R2 / (R1 + R2))・Voとなります。
ところが理想オペアンプの性質から、V'は-側の電圧と等しいのですが、
実はこの-側の電圧はViですので、結局次のようになります。
これを変形すると、次のようになります。
この場合は、入力Viと出力Voの符号が逆ではないので、
「非反転増幅回路」と呼ばれます。
負帰還の理論
一般に、「出力の一部を、入力に戻す」回路を帰還回路と
呼びますが、特に「出力の一部を、マイナスにして入力に戻す」
回路を負帰還回路と呼びます。
負帰還回路はこの図のようにモデル化できます。
図中のそれぞれのパラメータは次のとおりです。
- Vin : 入力信号の電圧
- Vout : 出力信号の電圧
- Vi : 増幅器の入力電圧
- A : 増幅器の増幅率(つまりVout = A・Vi) (もちろんA>>1)
- H : 減衰部の利得 (0< H <1)
つまり出力をH倍に減衰させて、入力Vinから引いているわけです。
したがって次のような関係が成り立ちます。
この2つの式からViを消去すると、VoとVinの比、
つまり全体伝達特性Gは次のようになります。
ところが一般的には、Aは非常に大きいため、
AH>>1と近似することができます。
したがって伝達特性Gは、次のようになります。
つまり全体の伝達特性(つまり増幅率)は、
「Aが何倍か」には関係なく、
「1/H倍」になるわけです。
一般にHは抵抗での分圧で作ることが多く、
その値は非常に正確になります。
したがって全体の伝達特性も、非常に正確にできるわけです。
オペアンプは「Aが十分大きい(理想的には無限大)」増幅器で、
かつ2つの入力のうち片方がマイナスになっていますので、
オペアンプを使った回路は、まさに「負帰還」を使った回路であるわけです。
この回のソボクな疑問集
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