第13回: 高周波回路

今回は、MOSトランジスタの微細化に伴う高性能化により、 近年実用的になってきた、MOSトランジスタを使った 無線機器向けの回路について、いくつかみていくことにしましょう。

無線トランシーバの構成

(「VLSI工学-基礎・設計編-」(岩田、コロナ社)p.117より)
近年の一般的な無線機器の通信部分の回路例を 上の図に示します。 数百MHz〜数GHzの無線通信で使われる周波数(Radio Frequency; RF)の 信号を、そのまま通信信号として 扱うのはさすがに困難なので、周波数を変換し、 低い周波数に落としてから、変調・復調といった処理を施して 通信信号として扱うのが一般的です。

低雑音増幅器

(「VLSI工学-基礎・設計編-」(岩田、コロナ社)p.120より)
RF信号を扱う回路で、最も基本的なものは 低雑音増幅器(Low Noise Amplifier; LNA)です。 これは、基本的にはソース接地やカスコード増幅器なのですが、 負荷に、抵抗ではなくインダクタを使います。 これは、一般にRF信号は振幅が小さいため、 抵抗が発する熱雑音が無視できず、 十分なSN比を確保するためです。 インダクタのインピーダンスは周波数に比例しますが、 RF信号の帯域では、数nHといった比較的小さなインダクタンスの インダクタでも十分な場合が多くなります。 もちろんインダクタのインピーダンスは周波数に依存しますので、 増幅したい周波数の信号に対して、適当な負荷インピーダンスに なるように、インダクタンス等を設計します。 これにより、増幅対象以外の信号を増幅しないで除去する、という 効果も得られます。

ミクサ

前述のように、RF信号は、いったん周波数が低い信号に 変換してから扱いますが、そのような周波数の変換を行うのが ミクサ(mixer)です。
(「VLSI工学-基礎・設計編-」(岩田、コロナ社)p.121より)
上図はダブルバランスミクサ(double ballance mixer; DBM)と 呼ばれる回路です。 これは、差動増幅器を応用したもので、 2つの信号LOとRFの積が出力IFとして現れます。(すべて差動信号) LOとRFの周波数をそれぞれωL、ωRとすると、 LO=sin(ωL t)、RF=sin(ωR t)とかけますが、 その積IFは、三角関数の積和公式から
sin(ωL t)・sin(ωR t) = (1/2)[sin{(ωL-ωR)t} + sin{(ωL+ωR) t}]
となり、LOとRFの和と差の周波数を持つ信号が得られます。 これを、適当なカットオフ周波数をもつLPFをとおせば、 sin{(ωL-ωR)t}の成分のみが得られます。 これにより、周波数の低い信号への変換ができることになります。

電圧制御発振回路

発振周波数を、制御端子に加える電圧によって 変えられる発振回路を電圧制御発振回路 (Voltage Controlled Oscillator; VCO)と呼びます。
(「VLSI工学-基礎・設計編-」(岩田、コロナ社)p.123より)
VCOの構成方法の1つが、インダクタとキャパシタの 共振を利用するLC型VCO(上図)です。 これは、制御電圧Vcontによって容量が変わるキャパシタ (可変キャパシタ(variable capacitor); バラクタ(Varactor))を 用い、LC回路の共振周波数を変えることで、 発振周波数を変えるものです。
このLC型VCOでは、集積回路上にインダクタをつくることが 必要になります。 しかし集積回路に集積できる回路は基本的に平面構造ですから、 スパイラルインダクタと呼ばれる、金属配線を渦巻状に 配置するインダクタが現実的です。 これはどうしても配線抵抗が大きいために 特性のよいインダクタを得ることが難しく、 これがVCOの特性を制限する主な要因となります。
(「VLSI工学-基礎・設計編-」(岩田、コロナ社)p.125より)
VCOのもう1つの構成方法が、リングオシレータ型VCO(上図)です。 奇数個のインバータをつないで出力を入力に戻すと、 インバータ1段分の遅延時間に応じた周波数で発振する回路となります。 これをリングオシレータと呼びますが、 これにつく負荷容量を制御電圧によって変えたり、 あるいはインバータの負荷駆動電流を 制御電圧によって変えることで、発振周波数を変えるものです。

位相同期ループ

RF回路では、自由に周波数を精度よく設定できるように、 発振周波数を負帰還をかけて安定化させる、 位相同期ループ(Phase Locked Loop; PLL)と呼ばれる回路が よく用いられます。
(「VLSI工学-基礎・設計編-」(岩田、コロナ社)p.126より)
PLLは、上図のように、基準となる信号の周波数frと、 出力信号foを1/Nに分周した帰還信号の周波数fpが 同じになるようにVCOを負帰還によって制御するものです。 これにより、frのN倍の周波数をfoとして得ることができます。
(「VLSI工学-基礎・設計編-」(岩田、コロナ社)p.127より)
PLL内のVCOに負帰還をかけるために、 2つの信号の周波数の位相の差を検出するのが 位相比較器(Phase Comparator)(上図)です。 例えばfr>fpならば、fpのほうが位相が遅れるので fpを高くするように、 逆にfr<fpならばfpのほうが位相が進むので fpを低くするように働かせるたものものです。 この位相比較器は、frとfpの位相の遅れ/進みに応じて 周波数を高くする信号Up、または低くする信号Downを 出力し、これによってキャパシタの電荷を出し入れすることで VCOの制御電圧を上げ/下げします。
配布資料(第13回) (PDF形式)
この回のソボクな疑問集
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