第11回: 演算増幅器

基本増幅回路(p.88)

MOSトランジスタには、G(ゲート)、ソース(S)、ドレイン(D)の 3つの端子があります。 この3つのうち、1つの電圧を固定し、残り2つのうち 1つを入力、残りを出力として使うことで増幅回路を作ろうとすると、 3種類の増幅回路が可能であることになります。

ソース接地増幅回路



ソース(S)の電圧を固定(nMOSの場合はGND)し、 ゲート(G)に入力を与え、ドレイン(D)に負荷抵抗RLをつないで 出力を取り出す回路をソース接地増幅回路と呼びます。 この回路では、入力信号は、ある一定電圧(バイアス電圧Vi0)を 中心とする小さい振幅の交流信号vinとして与えられるとしましょう。 つまりVGS = Vi0 + vinです。 このとき、ドレイン(D)に流れる電流IDは、 Vi0に対応する定電流ID0と、vinに対応する変化分idに 分かれるはずです。 このidは、vinに比例するはずなので、この比例係数と gmとおき、相互コンダクタンスと呼ぶことにしましょう。 つまりid = gm・vinです。

一方、負荷抵抗によって、出力電圧Voは Vo = VDD - RL・IDとなりますから、 この場合は Vo = VDD - RL・ID0 - RL・gm・vin となります。 この最後の項が、入力の変化分に対応するので、 これをvoとおきましょう。 つまりvo = -RL・gm・vin です。 変化しない分、つまり直流成分は、適当な回路(例えば コンデンサの直列回路)によってカットすることにして、 「信号」である変化分のみを考えることにしましょう。

ちなみにこの関係式は、厳密にはnMOSトランジスタの (交流信号に対する)ON抵抗ronを無限大と近似した場合のもので、 それを考慮すると、Voの変化分voに対して、 出力から流れ込む電流の変化分ioは io = vout / RL + vout / ronとなりますので、 等価的に出力インピーダンスはRL//ronとなり、 vo = -(RL//ron)・gm・vinとなります。

なお一般のソース接地増幅回路では、負荷抵抗RLは、 ふつうの抵抗ではなく、MOSトランジスタのゲートに 適当なバイアス電圧を与えて使います。

ゲート接地増幅回路



ゲート(G)の電圧を適当なバイアス電圧に固定し、 ソース(S)を入力、適当な負荷抵抗をつないだドレイン(D)を 出力として使うのがゲート接地回路です。 入力であるソース(S)の電圧がvinだけ上昇すると、 nMOSトランジスタのゲート-ソース間電圧VGSが減少しますから、 出力電圧の変化分voは、vinと同相となります。
詳細は省きますが、vo = (RL//ron)(gm + 1/ron)vin となることが 導かれます。

ドレイン接地増幅回路



ドレイン(S)の電圧を固定(通常はnMOSトランジスタであればVDD)し、 ゲート(G)に入力を与え、負荷抵抗をつないだソース(S)から 出力を取り出すのがドレイン接地回路です。 詳細は省略しますが、 vo = (gm・(RL//ron))/(1 + gm・(RL//ron))vin となることが 導かれます。 この式から分かるように、ほぼvo=vinとなることから、 この回路はソースフォロアとも呼ばれます。

カスコードアンプ



ゲート電圧を固定した上の図のような回路の出力インピーダンス Rout = vout/idを考えてみましょう。 出力電圧の変化分voutに対して、ドレイン(D)に流れる電流の 変化分をidとおいています。 このZsによる電圧降下から、vgs = -id・Zsとなります。 もともとid=gm・vgs + (vout - id・Zs)/ronですから、 これからRout = vout/id = ron(1 + gm・Zs) + Zs 〜 ron・gm・Zs となります。 つまりこの回路(実はゲート接地増幅回路)により、 負荷抵抗がron・gm倍になったように見えることになります。

ソース接地増幅回路の増幅率は、負荷抵抗RLに比例しますから、 この回路上の図のように利用して、ソース設置増幅回路の増幅率を 増加させることができます。 このような増幅回路を カスコードアンプと呼びます

カレントミラー



2つのMOSトランジスタを上の図のようにつないだ回路を カレントミラーと呼びます。 (左はnMOSを使った回路、右はpMOSを使った回路) この回路では、2つのMOSトランジスタのVGSが等しくなりますから、 両者のドレイン電流はほぼ等しくなり、Iout = Iin、となります。 Iinが定電流源であれば、出力側に加わる電圧にかかわらずに Ioutもほぼ一定となるので、変化分に対する出力インピーダンスが 非常に大きな電流源とみなすこともできます。

(以下、次回)

差動アンプ



MOSトランジスタを上の図のように接続した回路を考えてみます。 上の2つのpMOSはカレントミラーで、下のnMOSは電流源とみなせます。 2つの入力電圧を、それぞれVin(+) = VCM + vin/2, Vin(-) = VCM - vin/2と 書くことにしましょう。 ここでVCMは同相(コモンモード)電圧、vinが差動電圧で、 vin(+) = vin/2, vin(-) = -vin/2とおくことにします。

この差動電圧に対して、出力電流の変化分ioutは、 iout = id1 - id2 = gm・(vin(+) - vin(-)) = gm・vinとなりますから、 2つの入力電圧の差に比例した出力電流が得られることになります。 このような回路をOTA (Operational Transconductance Amplifier)と 呼びます。 この出力電流を適当な負荷抵抗を通すことで、2つの入力電圧の 差に比例した電圧を得られる差動アンプとなります。

また同相電圧VCMが変化した場合の変化分vCMとすると、 それに対応する出力電圧の変化vout'は、 このvCMに対しては、2つの入力nMOSのドレイン端子は 同電位とみなせますので、 下のnMOSをronの抵抗として考えると、 vgs = vCM - id・ron, id = gm・vgsですから、 id = {gm / (1 + gm・ron)}vCM 〜 (1/ron)・vCM となります。
またこの同相分に対する実質的な出力抵抗Rout'は、 上のカレントミラーを構成するpMOSのgmをgm'とすれば、 1/2gm'となります(gmの定義から)ので、 結果として同相電圧の変化分vCMに対する出力電圧の変化vout'の 利得(同相利得)ACMは、 ACM = vout'/vCM = id・Rout' / vCM = 1/(2gm'・ron)となります。 この同相利得は、もちろん小さいほうがいいわけですが、 そのためにはgm', ronを大きくすればよいことになります。

なお差動利得ADMと同相利得ACMの比ADM/ACMを、同相分除去比 (Commom Mode Rejectin Ratio; CMRR)と呼びます。

演算増幅器

この差動アンプを用いて、出力電流を十分大きく流せるような 回路にしたものを演算増幅器(operational amplifier; オペアンプ)と 呼びます。

シングル出力演算増幅器



出力電圧Voutが入力電圧の差に比例するオペアンプを シングル出力演算増幅器と呼びます。 みなさんが学生実験などで親しんでいるオペアンプは、 ほぼすべてこのシングル出力演算増幅器でしょう。

一般的なオペアンプでは、この回路のように、 高周波での利得を落とすことで負帰還回路を構成した際の 安定性を確保する(位相補償)ために、位相補償キャパシタCcを つないでおきます。

全差動演算増幅器

シングル出力演算増幅器は、電源電圧が変化してしまうと 出力電圧も変化してしまうという問題があります。 電源電圧の変化を、どの程度出力電圧の変化に反映させずに おけるか、という指標を電源電圧抑圧比(Power Supply Rejection Ratio; PSRR)と呼びますが、シングル出力演算増幅器では、 このPSRRを大きくすることは容易ではありません。

そこで、入力が差動入力なのであれば、 出力も2つの出力端子の差として出力する、 全差動演算増幅器というものがあります。 全差動演算増幅器は、2つの出力の差が出力ですから、 電源電圧が変化しても、2つの出力が共に変化するため、 PSRRは極めて大きくなります。

全差動演算増幅器の構成は、実は非常に簡単で、 基本的には差動アンプの入力段の2つのMOSトランジスタのドレインを それぞれの出力電圧、とするだけです。

ただし2つの出力電圧の直流分を確定させる要素がないため、 通常は同相帰還回路(Common Mode Feedback; CMFB)を呼ばれる回路を 付加し、出力電圧の直流分を適当な値に保つようにします。


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