第5回: オペアンプ(その3)
(配布資料:
NJM741データシート、
LM358データシート(p.20のみ))
現実のオペアンプのデータシート
ここまでオペアンプは、例えば次のような特性を持つ、「理想的オペアンプ」
だけを考えてきました。
ところが実際のオペアンプは、トランジスタからなる電子回路ですから、
厳密にはこれらの特性はもてません。
そこで今回は、「実際にある」オペアンプ、というものを
みてみることにしましょう。
(出典:
新日本無線(株)NJM741データシート
これは、NJM741という型番のオペアンプICのデータシートに載っている表です。
いくつかの項目について、それがどれぐらいの値なのか、ということが
この表からわかるわけです。
この表に載っている項目を、順番に見ていくことにしましょう。
現実のオペアンプの増幅率
このデータシートから、このオペアンプがもつ増幅率を
知ることができます。
この表のAvという項目がそうで、
最小で86dB、標準で110dB、となっています。
20dB=10倍、10dB=33倍のことですから、
110dBは、
110dB=2×50dB+10dB、
つまり3×105=300,000倍、
ということになります。
つまり入力の電圧差を300,000倍にも増幅するわけですから、
かなり大きく、ほとんどの場合は無限大とみなして構わないわけです。
ただしこの増幅率は、直流の場合です。
一般にオペアンプの増幅率は、次の図のように、ある周波数から
下がり始め(周波数10倍に対して増幅率1/10=「-20dB/decade」
(decadeは「10倍」の意味)、
または周波数2倍に対して増幅率1/2=「-6dB/octave」
(octaveは「2倍」の意味))ます。
この-20dB/dec=-6dB/octで増幅率が下がっていくところでは、
増幅率は周波数に反比例していますから、
増幅率と周波数の積は一定となります。
この積をGB積 (Gain Band-width積)と呼び、
オペアンプの利得をあらわす指標の一つとなります。
(ちなみにこのNJM741のデータシートにはGB積の値は載っていませんが、
3ページ目の右下のグラフから、100kHzでの増幅率が20dBほどですから、
GB積は100,000×10=106程度、とういことになります)
オフセット・バイアス
次に理想オペアンプの「2つの入力の電圧が等しい」という特性と、
「入力に電流が流れない」という2つの特性が、
現実のオペアンプではどのようになるのかを見ていきましょう。
入力オフセット電圧
現実のオペアンプでは、増幅率が無限大でない、
などの様々な理由で、2つの入力の電圧は等しくならず、
多少の電圧差が生じます。
この電圧差を入力オフセット電圧と呼びます。
(「オフセット(offset)」とは、2つのものがもつ差、のような意味です)
例えば先のNJM741のデータシートでは、
標準で2.0mV、最大(保証値)で6.0mVの入力オフセット電圧が
あることが載っています。
この入力オフセット電圧は、例えば反転増幅回路では
上の図のように、入力の片方(この図では-側)に電圧源Voffが
入っているもの、と考えることができます。
ここで入力電圧Vi=0とすれば、本来は出力電圧Vo=0となるはずですが、
このように入力オフセット電圧Voffがある場合のVoを求めてみることに
しましょう。
まず I1 = -Voff / R1 となりますが、
これはすべて抵抗R2に流れますので、
R2の両端の電圧差は I1・R2 = -(R2/R1)Voff となりますので、
Voは、R2の左側の電圧Voffよりもこれだけ低い電圧ですから、
Vo = Voff + (R2/R1)Voff = (1 + R2/R1)Voff
となります。
R2/R1は、反転増幅回路の増幅率そのものですから、
増幅率の大きい反転増幅器ほど、入力オフセット電圧の影響が
出力電圧に大きく出てくることになります。
例えばR2/R1=100倍だと、先のNJM741では、出力電圧は
理想から最大で606mV、つまり0.6Vもずれることになります。
入力バイアス電流・入力オフセット電流
現実のオペアンプでは、回路構成などの理由から、
入力端子に電流が多少流れます。
これを入力バイアス電流と呼びます。
(「バイアス(bias)」とは、中心からのズレ、のような意味です。
「偏見」のような意味もあります)
入力端子は2つありますから、
+端子側の入力バイアス電流Ib+と、
-端子側の入力バイアス電流Ib-をそれぞれ考えることができ、
ここでは、これらのバイアス電流の向きを、いずれも入力端子に向かって
流れ込む向きと仮定しましょう。
つまり次の図のように考えることができます。
この2つの入力バイアス電流の差の絶対値
|Ib+ - Ib-|のことを、
入力オフセット電流と呼びます。
つまり2つの入力の入力バイアス電流に、どれぐらいの差があるか、
という量であるわけです。
この入力バイアス電流については、次回詳しく演習で扱うことにしましょう。
入力抵抗
理想オペアンプでは入力端子には電流が流れないわけですが、
現実のオペアンプでは多少の電流が流れます。
これは、2つの入力端子の間に大きな抵抗がつながっている、と
みなすことができ、これを入力抵抗と呼びます。
このNJM741では、入力抵抗は最小で0.3MΩ、標準で2.0MΩと
なっていますので、厳密にはこのような抵抗が
2つの入力端子の間につながっている、という等価回路を考える必要が
あるわけです。
なお入力抵抗と入力バイアス電流は別に考えなければなりません。
つまり入力バイアス電流とは、常に入力端子に流れる電流ですから、
入力抵抗とは無関係であるわけです。
現実のオペアンプの回路
これらの、現実のオペアンプの理想オペアンプからの特性のズレは、
主にオペアンプの中身の回路構成に依存します。
ここでは、現実のオペアンプが、どのような電子回路で
作られているのか、を少しだけ見ておくことにしましょう。
差動増幅回路
オペアンプの本質は、「2つの入力の差」を増幅する、というものです。
この特性は、次のような差動増幅回路でつくることができます。
この回路の詳細は触れませんが、
トランジスタが2個、エミッタがつながって左右対称に配置されている、
ということだけ、頭に入れておいてください。
Vo = V3 - V4として、この回路の解析をすると
次のようになることが導かれます。
- Vo = V3 - V4 = -(βRc/Rie)(V1 - V2)
- Rie = r + rb + (1 + β)re
- rb: 等価ベース抵抗、re: 等価エミッタ抵抗、β: トランジスタの直流増幅率
式の詳細は覚える必要は全くありませんが、
ポイントは、Voが(V1 - V2)に比例している、ということ、
つまりV1とV2の差を増幅する、差動増幅回路である、ということだけ
みておくことにしましょう。
つまりオペアンプそのもの、であるわけです。
カレントミラー
もう一つ、オペアンプを構成する上で欠かせないのが
次の図の左のようなカレント(current mirror)ミラーと呼ばれる回路です。
これも回路の詳細は触れませんが、
解析をしてみると、I2 = I1 となることが導かれます。
つまりこの回路は、左側に流れる電流と同じだけ、
右側に流してくれる、つまり電流を鏡で映したように
コピーをするような回路、であるわけです。
さてこれをどう使うかというと、
この図の右のようにしてみると、次のような関係が成り立ちます
- I1 = I2'(カレントミラーの性質から)
- I2 = Io + I2'
この2つの式からI2'を消去すると、
Io = I2 - I1 となります。
つまり2つの電流の差を求めることができたわけです。
課題1
現実のオペアンプのうち、特徴のあるオペアンプをいくつか選び、
その特性をまとめてみてください。
また講義で紹介した汎用オペアンプのNJM741と比べて、
それ以外の項目がどのようになっているか、比較してみてください。
なお対象となるオペアンプとしては、例えば以下のようなものが
参考になるでしょう。
提出方法や期限などは以下のとおりとします。
- 提出方法: レポート用紙(できればA4版)にまとめ、
電気情報棟3F 328室前のレポートBOXへ
- 期限: 11/5(金)18:00
- 注意: 誰かと相談した場合や、書籍やWebページなどを参考にした
場合は、その旨(出典)を明記すること
この回のソボクな疑問集
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