第13回: ROM

この講義の最後では、メモリのもう1つの要素である読み出し専用メモリ(ROM) について見ていきましょう。

ROMの用途

コンピュータにはメモリが不可欠ですが、前回と前々回みてきた RAMは、いずれも電源を切ると内容が消えてしまう、 いわゆる揮発性メモリです。 ところがコンピュータの動作手順であるプログラムや、 演算に用いる定数などは、電源を切って消えてしまっては困るものも 多くあります。 これらは、電源を切っても消えない、不揮発性メモリに 格納しておく必要があります。 ROM (Read Only Memory)という呼び方は、 狭義には読み出し専用メモリの意味ですが、 広義には、不揮発性メモリとほぼ同義で用いられるようです。

ROMの種類

電源を切っても消えないのがROMであるわけですが、 その記憶の原理と、書き換えが可能か不可能かによっていくつかに 分類されます。

マスクROM

一度作ってしまったら内容を書き換えないようなメモリ内容であれば、 LSIを作るときに、回路として記憶内容を作りこんでおく方法があります。 これは、LSIを作るときの露光マスクの段階で記憶内容を決めておくので、 マスクROMと呼ばれます。 動作原理から、大きく次の3つの方法がありますが、いずれも 回路として1か0の値を記憶させておく方法です。

まずデータ線Djをプリチャージし、その後選択した行アドレスで 読み出し対象のワード線を1にし、データ線Djが放電される('0')か 放電されない('1')か、によって0か1を読み出すわけです。 これらの3種類の構成のマスクROMは、いずれも 0を記憶している状態(上側のWLi)と 1を記憶している状態(上側のWLi+1)が示されていますが、 それぞれトランジスタの有無、トランジスタのしきい値、コンタクトの有無で 0と1が記憶されています。

この3種類を、集積度の面で比べてみると、 データ線とメモリセルをつなぐためのコンタクトホールは、 (a)と(b)では2ビットあたりで1個必要ですが、 (c)では1ビットあたりで1個必要であるため、 (c)は集積度が下がってしまうという欠点はあります。

この考え方をさらに進めると、複数のトランジスタでコンタクトを使わずに 並べてしまう、いわゆるNAND型のマスクROMを作ることができます。 これは、N個の値を記憶しておくトランジスタと、これらをまとめて 選択する1個トランジスタからなります。 このうち、値を記憶しておくトランジスタでは、それぞれに記憶するべき 値に応じて、しきい値を正にする('1')か負にする('0')か、を トランジスタを作るときのイオン打ち込みの段階で決めておきます。

読み出し時には、データ線Djをプリチャージした後で、N本のワード線を、 読み出し対象のワード線のみを0に、他をすべて1とした状態で、 ブロック選択線を1にしてみると、読み出し対象のメモリセルの トランジスタ以外はすべてONになります。 このとき、読み出し対象のメモリセルのトランジスタのしきい値が負であれば このトランジスタもONですから、データ線Djは放電されて0になりますが、 しきい値が正であれば、このトランジスタはOFFですから、 データ線Djは放電されずに1となるわけで、結果として 読み出し対象のメモリセルの値が読み出せたことになります。 このような、いわゆるNAND型のマスクROMは、N個のトランジスタを コンタクトなしに並べられますから、集積度を非常に高くできます。 ただし読み出し時にN個のトランジスタの直列抵抗で データ線Djの電荷を放電することになりますから、読み出し速度が 遅くなってしまうという欠点もあります。

UV-EPROM


このような、ゲート電極と基板の間に、1つ浮いた電極(浮遊ゲート(Floating Gate; FG))をもつトランジスタを考えましょう。 制御電極に加える電圧をVC、浮遊ゲートと制御電極、基板との間の容量を それぞれCU, CLとして、CLにたまってい電荷をQFとしてみると、 浮遊ゲートFGの電位VFは、CU, CLにたまっている電荷をそれぞれQU, QLとすれば 次の関係がなりたちます。 これから、 となりますが、一般にCL<<CUとするため、 VFは、等価的にトランジスタに加わるゲート電圧ですから、 浮遊ゲートに電荷がない(QF=0)の場合は、VCの高低によって トランジスタはON/OFFしますが、 浮遊ゲートに電子がある(QF<0)場合は、VFは低くなり、 トランジスタはVCに関わらずOFFとなります。 このようにして、浮遊ゲートの電荷の有無として、1か0を記憶できるわけ です。

この方式の特長は、浮遊ゲートに電荷を後から電気的に入れることが できる、ということです。 つまり「書き込み」ができるわけです。 これは、チャネルに大きめの電流を流すことで、チャネルを流れる電流の 電子のエネルギーが高くなり(ホットエレクトロン)、その一部が、 トンネル効果で酸化膜を通り抜けて浮遊ゲートにたまる、という現象がおこることで 実現できます。

さらに紫外線などを照射すると、浮遊ゲートにたまっている電子が、 再び酸化膜を乗り越えて消えてしまうため、「消去」もできるわけです。 このため、このようなROMを、「紫外線消去可能な、電気的書き込み可能なROM」 (UV-Electrically Programmable ROM; UV-EPROM)と呼びます。

フラッシュメモリ

UV-EPROMは、書き換えが可能であるために、製造後に記憶内容を変更する、 といった用途に便利ですが、消去のために紫外線を照射する必要があり、 少々不便です。 そこで考えられたのが、フラッシュメモリと呼ばれるものです。 これは、浮遊ゲートまでの酸化膜を薄くすることで 書き込みに必要な電圧を低くし、 さらにソースに正の高い電圧を加えることで浮遊ゲートにたまっている 電荷を引き抜くことができるようにしたものです。 つまり書き込みも消去も、電気的に行うことができるわけです。 ただしこの消去の動作は、すべてのトランジスタのソースに 高い正の電圧を加えて行うために、すべて(またはあるブロックすべて)の 記憶内容がまとめて消去されてしまうため、 フラッシュメモリ (Flash Memory)と呼ばれています。 フラッシュメモリの読み出しは、DRAMと同程度ですが、 書き込みにはトンネル効果を用いるために時間がかかり(たとえば10us程度)、 消去には、さらに長く10ms以上の時間がかかるものも多いようです。 このフラッシュメモリは、デジカメ記録媒体をはじめ、 世の中で広く使われているのはみなさんご存知のとおりです。
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