PCBEによるプリント基板作成入門
もくじ
はじめに†
このページは、PCBEでプリント基板を作成するための手順や完成例などをまとめていきたいと思っています。このページは秋田純一氏のページ、および北川章夫氏のページを読んでいることとを前提に記述しています。
基板作成の手順†
前準備†
- どんな回路を作りたいのか考えましょう。そして、それを実現するための構成を考えましょう。
- 使用する部品を決めて表にまとめます。漏れがないように、使用する部品をすべて洗い出しましょう。あとにになればなるほど部品を追加するのが面倒くさいです。またICの近くにはパスコン(バイパスコンデンサ)も入れましょう。
- 使用する部品の仕様書を集めます。仕様書の中に部品の寸法が描いてあるため、集められるものはすべて集めておいた方が便利です。
必要なソフトを集める†
PCBE†
高戸谷隆氏によるプリント基板エディタです。軽快な動作で、プリント基板をさっと作成したい時に便利です。
最新版はVectorから入手できます。
PCBEDRC†
秋田純一氏による、PCBデータにDRC(Design Rule Check)をかけるソフトです。実行するにはCygwinが必要です。
なお、MeRLの学生は、Linuxでも実行できるCソースを利用できます。
これを高性能なCADサーバ(vlsisv20など)上でコンパイルして実行した方が断然速いので、こちらの方がオススメです。
- こっそりと微妙にバージョンアップしていることもあるので、動作があやしいときは、akitaまでご相談ください。(2008/12/18:akita)
PCBEの設定†
- よく使うパッド情報などを記述したPCBE.INIと置き換えます。
- 新しい基板を作成する前に部品用ライブラリを作ります。作ったライブラリをメインで読み込ませるために、PCBE.INIの一部をテキストエディタで書き換えましょう。
編集前
[LibraryFiles]
FileName:Part1.lib
編集後
[LibraryFiles]
FileName:(自分でつくったライブラリ名).lib
基板作成†
現物とPCBデータを見比べる†
初めて作る方にとっては、いざプリント基板を作ろうと思っても、どのレイヤーが基板のどこに対応しているのか分からずに困惑すると思います。なので、始める前に過去に基板を作ったことのある人から プリント基板の現物 と pcbファイル を借りて、両者を見比べてみましょう。なんとなくどうなっているのか分かってくると思います。
フットプリント作成†
フットプリントとは、実際に使う部品の外形寸法にあわせて作るパターンのことです。まずは使用する部品のフットプリントをすべて作りましょう。
- 使用する外形寸法にあわせてグリッドを決めます。部品によってインチ系とミリ系がありますので、仕様書をよく確認しましょう。とくに予定がない場合は50mil(1.27mm)で良いと思います。
インチ系 | 2.54mm = 0.1インチ = 100milまたはその整数分の一 |
ミリ系 | 1mmまたはその整数分の一 |
- 使用する外形寸法にあわせてフットプリントを作成します。 使用する部品によってパッドの大きさが異なる*1場合があります。よく確認しましょう。
- 作成したフットプリントをすべて選択して[部品登録] をしましょう。部品を登録する際は、新たにライブラリを作成した方が良いです。 表面実装のQFPパッケージなどの場合は、フットプリントを原寸大に印刷し、その上にICを実際に乗せてみて、はんだ付けが可能かどうかを確認しましょう。
配線の太さは以下を目安にして下さい。電源線については、より太い方がノイズ特性が良くなります。
一般的な配線(信号) | 0.2mm〜0.3mm |
電源線 | 1.0mm〜1.6mm |
- フットプリントが完成したら、それらをすべて同一基板上に並べます。このときは適当に配置してかまいません。
- 接続されるパッド・ランド同士をラインでつなぎます。 このときはまだ、配線の引き回しなどは気にしなくてよいです。グリッドが異なるパッド・ランド同士を配線する場合は、 配線の始点or終点を決める前に、ショートカットキー[t] を押してからパッド・ランドをクリックすると、うまくつながります。
- なるべく配線が短くなるようなフロアプランを考えます。また、パスコンはICのなるべく近くにあるようにつけましょう。
- 配線同士が重ならないように変形していきます。高周波を扱う基板では、 配線は45°で曲げる ほうが特性が良いようです。
- 基板のうち、配線や部品が無く空いている箇所はベタVDDやベタGNDにします。ベタVDDとベタGNDを対向させるように配置するのがよりよい方法ですが、VDDの引き回しが大変な場合は両面ともベタGNDにしておけば問題ないでしょう。また、ICの下は配線を引き延ばさずに、ベタGND・ベタVDDにするのがベターです。
シルク†
実際に現物が届いたとき、どのパッドがどのパーツのものなのか一目で判別できるように、シルクをたくさんつけておきましょう。
DRC†
DRC(Design Rule Check)をします。Cygwin上で PCBEDRC を実行しましょう。以下のように使用します。
>./pcbedrc.exe (基板ファイル).pcb (ルールファイル).rul (任意の出力ファイル名).pcb
出力されたpcbファイルを開くと問題箇所の色が変わります。端末には問題箇所の座標が表示されるため、そちらを確認しても分かります。
完成した基板データは必ず検図しましょう。PCBEは回路図を描かないので、いわゆるLVS (Layout versus Schematic)はできません。以下の方法で正しく作成できているか確認しましょう。等電位による確認は、ベタVDD・ベタGNDを置く前にした方が見やすいと思います。
- ショートカットキー[p]で画面上に同電位の場所を表示する
- 表と裏の2枚をプリンタで印刷して目視で確認(色鉛筆で配線を追う)
まちがって結線されていないかどうかを入念にチェックしましょう。
完成したプリント基板データを製造会社に提出するには、それぞれの製造会社の指示に従って下さい。以下は某P社の例です。
PCBEの注意事項†
PCBEを使用するうえで、とくに注意すべきことをまとめます。
- PCBEはアンドゥがないので、頻繁にファイルを保存しましょう。ある程度進んだら別名ファイルにバックアップをとり、いつでも戻れるようにしておくことをオススメします。
- 部品登録する際は、必ずグリッドを確認しましょう(インチ系の部品ならグリッドもインチ系にする、など)。そうしないと、部品として呼び出したときにうまくグリッドに乗りません。
- グループ解除は慎重に行いましょう。部品登録してあるデータも、塗潰しによって作ったランドも、一度解除してしまうと元に戻せなくなります。
- 塗潰しは、丸ラインで囲んだ領域でしかできません。
- 塗潰しした領域は、PCBEの [等電位] 機能がうまく働きません。そのためベタVDD・ベタGNDを置くと等電位での確認ができなくなるので、誤って短絡しないように慎重にベタを置きましょう。
- グリッドはなるべく統一して配線しましょう。最後にどうしてもDRCが通らないときに、グリッドを細かくして配線を動かす、というようにして作った方が綺麗に作れます。
参考文献†
- 伊藤健一, "アースとノイズの話," 日刊工業新聞社
イラスト入りでとても簡潔に書いてあり、とても分かりやすいです。パスコンの重要性がよく分かる本です。
- トランジスタ技術SPECIAL編集部, "技術者のためのプリント基板設計入門―PCBCAD時代のプリント基板作成と実装のすべて," CQ出版社
より詳しい解説が欲しい人向き。高速デジタル回路、高周波回路、電源回路において注意すべき点がまとめられています。
完成品ギャラリー†
2008年12月2日完成 作成者:koma†
Chip測定用基板。VDEC標準のDUTボードをそのまま挿せるようになっています。
工夫した点†
- PSoCとDUTのピン対応が一目で分かるようにシルクをつけた。
- 空いている箇所全面をベタGNDにした。
- 配線は可能な限り45°で曲がるようにした。
- PSoCからの信号が出力される配線が、最短距離でパッドに入るように、ぎりぎりで配置した。
失敗した点†
どんどん増えていく…(;'∀`)
- 表面実装のPSoCの足を乗せるランド部分が短かいのに、それを印刷して確認せずに作ってしまったために、最後にそれを修正することになってしまった。しかも配線をぎりぎりに配置していたため、動かすのにとても苦労した。部品周辺の配線はある程度余裕が合った方がいいのかも。。
- 表面実装のPSoCの足のうち、使用しない箇所をシルクにしてしまった。本来はレジストをはがしたランドにしておくべきだった。
- レギュレータ(LM317)の足が他の部品よりも太いことを確認していなかったので、少しきつい。
- レギュレータと抵抗との距離をもう少し開けておけば良かったかも。。
- レギュレータ(LM317)用のパスコンをつけるパッドを用意するのを忘れていた。
- DC電源供給コネクタがMeRL標準と異なる。
- XRES*2がGNDに短絡していた。
2008.09.01完成 作成者:senda†
2008年度ものづくり教室向け電子工作キット「光の迷路」専用基板
工夫した点†
- 持ちやすさを考え、電池ボックスを両サイドに置き、その上にスイッチを置くなど配置を工夫した
- 見栄えがよくなるよう、配線用のホールはICソケットの下になるようにした
- 空きスペースにマイコンブのシルクを入れた
失敗した点†
- ピンヘッダソケットのフットプリントが、1つだけ1.27mm分ずれてしまっていた
- シルクが少なく、どこにどの素子をつなぐのかがわかりづらかった
- パッドの径が小さく、修正するときにはがれてしまうことがあった
- パッドが配線の一部になっており、パッドがはがれると配線が切れてしまう部分があった
- タクトスイッチが小さくて押しづらかった
- 調達時に小さいものしかなかったためだが、大きいものにも対応できるような基板にしておけばよかった
2008年6月25日完成 作成者:kondo†
(概要)雲観測用のカメラモジュール基板
デザインウェーブ2007年7月号のFPGAボードからCMOSカメラTCM8240MD、SDRAMのMT48LC8M8A2-7Eを制御するための基板
失敗した点†
- ピッチ幅を変えすぎて、端点接続できなくなることがあった
- シルクが少ない
- シルクでピン名などを分かりやすくするべき
(ロジアナ等で計測する時にもピン名が分かる方が良い)
- テスト計測用のピンを用意しなかった
- FPGAの信号を計測する時に、直接ピンを計測しているが、ピンを掴みづらい
- FPGAボードの周りに計測用のピンを用意するべきだった
- LM317Tのピン配置を間違えた
- 前に使っていたレギュレータと配置が違ったため、勘違いした
- カメラ部分のランドをぴったりに作りすぎた。
- 半田付けに苦労した。
- 少し大きめにランドを用意するべきかも
PCBEメモ†
- Undoができない
- subversionなどを利用して、バージョン管理するのがよいかも。
- よくやる方法として、表面→VDD、裏面→GNDにする方法
- 3層基板?なら、表全てVdd,裏全てGNDというのもあるみたい。
- レギュレータのLM317は1.1mmぐらいでいい
- レギュレータは、元電源になるので、線が太いのかな。
できるだけきれいに線を引こうとか考えていたせいか、
ピッチ幅をいろいろ変えすぎて、最終的に苦労する結果になった。
ピッチ幅をいろいろ変えていたせいか、端点を接続しても
等電位にならないことがあった。なぜか「交点・端点」コマンドを使っても、うまくいかないこともありました。
秋田先生からのコメント
基本的には、グリッドは1.27mmあたりに固定し、
長めの配線を引くようにするとよいと思います。
グリッドのことなる部品の足のまわりは、
端点接続(T)を活用して、最小限だけ斜め線をひっぱって、
あとは1.27mmのグリッドに載せるのが、よいように思います。