こんにちは、秋田です。2017年11月に、学生4人を連れて、MakerFaireShenZhen2017にあわせて、一週間ほどShenZhenに行ってきました。(彼らのblogエントリと重複しそうな内容は端折ってありますので、彼らのblogエントリとあわせてご覧いただければ幸いです。→吉村・小瀬・中川・吉田)
思えばShenZhenは、4年前に香港に行ったときに30分だけ行ったのが最初(そのときのblog)で、これはちゃんと来なければと思って3年前に学会にあわせて高須さんがアレンジされた観察会(第2回ニコ技深圳観察会)に参加し(そのときのblog)、2年前のMakerFaireShenZhenに行って以来になります。その後もShenZhenの動向は気にしつつも行く機会がなかった(つくれなかった)のですが、高須さんの「メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。」を読んだり、いろいろな方のお話を伺っているうちに、いろいろと大きく変わっている途中のShenZhenを見ておかねば、と思って、今回また行ってきました。
香港には20年前、イギリスから中国に返還される直前に行ったことがあります。そのときに買ったガイドブックに載っている地図がこちら。
まだShenZhen側はまだ埋め立てられていない海が広く、紹介文では、地下鉄もまだ通っていないが香港への玄関口として発展が始まっている、と書かれていました。まさかそのときには、こんなに香港経由でShenZhenに行くことになると思いませんでした。ShenZhenは明治維新と高度経済成長が並行しているような進化が、まさしく「深圳速度」で進行中です。
↑2年前(2015年)に行ったときに買った交通カード(ShenZhenTong)の裏面の地下鉄路線図
↑今回(2017年)の地下鉄路線図。たった2年でだいぶ路線が増えています。
さて、まずはMakerFairShenZhen。
本業のMakeLSI:の展示。メインは、レイアウト図とLチカLSIのLチカだけ、というとても地味な展示です。
↑おまけ(?)で、コースターも少しだけ頒布していました。ちなみに、この「の」がかわいい、という声をよく聞きました。中華圏では「日本語っぽい文字」として人気があるらしいですね。
こんなミネラルウオーターもありました(Gからはじまる名前でしたが、「の」にしか見えない)
最近中国では、QRコードを使ったスマホ決済がよくつかわれているとのことだったので、コースターの代金受け取りのために、自分のQRコードを印刷して持って行きました。結果はこれが大活躍で、売れたコースターの代金の大半はこれで支払いを受けました。WeChat(微信:LINEのようなチャットアプリ)のアカウント内の中に財布(WeChatPay)があって、スマホのアプリでこのQRコードをスキャンし、支払金額を入力すれば支払い完了。逆に、市中のお店のほとんどには、このQRコードが貼ってあって、自分が支払うときは、そのQRコードをスキャンして支払い画面をお店の人に見せて支払い完了、となります。何よりQRコードだけなので、お店側の手間が少ないのがいいですね。(ちなみに↑のQRコードをスキャンすれば、私にWeChatPay送金できます。投げ銭歓迎です(ぉ))
このQRコード決済の普及と相まって、sharing economyがかなり普及しています。これは傘。そのほか、ofoやMobikeなどの自転車(市内いたるところに自転車がおいてあり、QRコードで認証して解錠して乗り、好きなところで降りて施錠して乗り捨て。30分で1元ぐらいなので、歩いて10分くらいの距離だと、自転車を使いたくなってしまう)も。ただ故障した自転車も多数見かけたので、壮大な社会実験を(民間が)行っている、というところでしょうか。
↑ちなみにこの展示では、噂の「ブルーリボン」をいただけました。地味な展示でしたが、ある意味評価をされたということで、個人的にはとてもうれしかったです。
さてMakerFaireShenZhen全般では、2年前の前回はスタートアップの製品紹介のような完成度の高いものが多かった印象だったのですが、今回は、MTMやNTにある(あった)「アツい思いから、面白いから、作ってみた」というものが結構増えた印象です。
↑こちらはお隣のブースの方ですが、カーボン素材で竹馬のようなフィン付きの道具をつくり、それで水上を歩行する(水上漂)おじさん。ヤバい。しかもこれで起業をするんだそうです。まじか。こんな感じで、いい意味で「ヤバい」展示がけっこうあって、見ていて楽しく、そして居心地がよかったです。
MakerFaireShenZhenの期間中、高須さんの呼びかけで、現地入りしている日本人を中心に100人近くが集まるオフ会がありました。その際、高須さんにご紹介いただいた、OpenSourceHardware界の有名人、Bunnieさんと少しお話させていただけました。ついでに、彼が作ったChumby(世界で最初にShenZhenで量産されたOpenSourceHWらしい)を持っている人が、私を含めてこの会に3人いて、それを喜んでビールをおごってくれました(左はスイッチサイエンスの金本社長)。ちなみにそのChumby、先日の研究室の掃除のときに、危うく学生に捨てられそうになって、あわてて止めたのでした。
さてMakerFaireのあと、かつての「ニコ技深圳観察会」の後継(?)として、HighTourがあり、抽選だったのですが、幸い参加させていただけたので、丸三日間、いろいろ見学してきました。ここでも、学生さんたちのblogエントリと重ならない話を。
3年前の観察会のときは、Seeedの工場はだいぶ郊外にあったのですが、いまはだいぶ中心部、産業集積新都心の南山にありました。Ajail試作センターは相変わらずのきれいでコンパクトな、量産機械と手動作業の組み合わせ。
↑個人的にはスルーホール部品の足に溶けたはんだを塗る機械をはじめてみました。なるほど。
↑世界中のMakerの味方、FusionPCBA(基板製造+部品実装)。その工程の進捗状況が大きなディスプレイに表示されていて進捗が一目瞭然。「売上金額」も刻一刻と変わっていました。
↑つづいて郊外(ShenZhen空港のもう少し北)のプリント基板工場。ここは半年前の今年4月から稼働開始なのだそうですが、設備は古めでした。3年前の気になった、労働環境の悪さ、例えば素手で、基板を固定してある竿をエッチング液槽に浸す、などは、それほど変わっていないようで、ちょっと心配でした。ちなみに見学したここは、SeeedのFusionPCBの提携工場ではないそうです。
続いてプラスチック成型工場で金型を作るおじさん。職人芸ですね。
このプラスチック成型工場の隣では、CNC工作機械も生産されていました。
実はこの1日目、当初の予定では、藤岡さんが経営されているEMSサービスのJENESも見学予定でした。3年前の見学でもお世話になったのですが、その後どう変わっているのか、とても興味があって楽しみにしていたのですが、前日に急にキャンセルになってしまいました。残念・・・訪問は改めての機会にしたいと思いますが、その藤岡さんが、ご自身のご経験などから「「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ−これからの製造のトレンドとエコシステム」という本を書かれていますので、さっそく読んでみたいと思います。
二日目は、主にMakerのためのスペース。最近はShenZhenでは、自発的につくられたものから行政主導のものまで、たくさんのMakerスペースができているそうです。
↑こちらはSeeedも運営しているx.factory。会員制(会費は月7000円くらい)の工房で、DMM.akibaのような感じでしょうか。
↑もう一つはZeroLaboで、ギークが集まるMakerSpaceっぽい雰囲気でした。「トラブルもMakeする」
3日目は、ハードウエア専門のアクセラレター(スタートアップ企業を募集して集中的に合宿して育てるブートキャンプのようなところ)であるHAX(3年前に見学に伺ったときはHAXLR8Rという名前だった)。今回の見学は短時間でしたが、工具や工作機械がそろった工房から、少量ながら製品を製造する部屋まで。
↑HAXの入り口には、HAX卒業生の会社のロゴが並んでいるのですが、つい先日購入した基板プリンタのVolteraもありました。前回おじゃましたときは、(半分冗談で)「(HAX卒業生の会社の)製品を持ってる?何個?」と聞かれていたので、「うん、もってる。1個だけど」と心の中で思っていました。
この日の夕方には、HuaQiangBeiにあるSEG Maker Spaceで、高須さんと、東大の伊藤亞聖先生のトークがある、とのことだったので、香港に移動する前に行ってきました。高須さんのお話は、NT金沢などでお聞きしている内容もありますが、いつも新しい発見があります。また伊藤先生は初めてお会いしたのですが、経済学者として、現代中国での産業構造について研究されている中から、MakerムーブメントとShenZhenの関係にも注目されていて、積極的に情報発信をされています(ご著書「現代中国の産業集積―「世界の工場」とボトムアップ型経済発展―」を早速読ませていただきたいと思います)。こちらも経済学者としての視点からのお話で、新しい視点を多数いただけるお話で、おなかいっぱいになりました。少しずつ消化していきたいと思います。
さてShenZhenといえば、電気街のHuaQianBeiなわけですが、部品のみならずガジェットの問屋としても、札束と空のカバンをもって行きたいところです。
↑こちらは、さきほどビールをおごってくれた、Bunnieさんの本 “The Essential Guide to Electronics in Shenzhen”。HuaQianBeiのSEGビルの2Fで、Arduinoなどを売っているお店(実は意外と少ない)をやっているMJさんのお店で買いました。300元。
↑こちらは、スマホやタブレットのお店が集まるビルで、「えらく細長いスマホだな」と、半分ネタとして、店頭で電源も入れずに、100元くらいで買いました。あとで電源を入れてみてびっくり。全面タッチパネル単色ディスプレイ(たぶんOLED)の、フィーチャーホンでした。メール送受信に加えて、WeChatもできるみたいです。Webブラウザ機能はないけどデュアルSIMっぽいです。前出のBunnieさんが、12ドル携帯電話の話を書かれているのですが、この電話機は、タッチパネル・OLEDディスプレイで同じくらいの価格です。このような、人件費も地価も上がっているのに、安価な製品をつくれるエコシステムが成り立っているShenZhenの仕組みは、いろいろ興味深いです。特に標準ハードウエア(ボード)である公板(Gon Ban)(例えば高須さんの記事などが詳しい)は、ピーター・ドラッカー(「もしドラ」のドラッカー)が「汎用品を組み合わせて多様な製品を量産する、新型の大量生産」と呼んだ産業形態そのもので、それがShenZhenとその付近の地域でエコシステムを形成しているのは、とても興味深いです。
さて、以下、閑話休題。
↑ShenZhenは食べ物が安くておいしくて、個人的にはとても居心地がいいです。このチャーハンで10元くらい。しかもうまい。
↑3年前にもいった、ShenZhen郊外の大芬(Dafen)油画村(高須さんの記事)も、少し行ってきました。あいにくの大雨だったのでゆっくりとは見ていないのですが、相変わらずでした。
さて帰路にShenZhenから香港に入ると、急に老人が増えたような気がします。別に香港がそれほど高齢化社会というわけではなく、ShenZhenが若い人が多すぎるわけですけど。で、その香港の安宿、今回が2回目なのですが、知らないとなかなか難易度高めです。
↑入口は、ビルの隅の、住人しか入らなさそうな入り口。ここから入って狭いエレベーターで20階ぐらいまでのぼると、集合住宅の一部屋を、薄い壁で6部屋くらいに区切ったところがホテル。ホテルといってもおばちゃんがラーメン食べてました。部屋はきれいで静かなのですが、さすが人口密度の高い香港。トイレとシャワーはこんな感じ。まあ慣れればこんなもの、と思うのですが、普通のホテルをイメージしてくると、かなり驚くでしょうね。
↑どうでもいいことなんですが、香港の深水埗(電気街っぽいところ)でふらっと入ったお店でケーブル買ったのですが、お店の名前が”Akita Computer”でした(帰国してから気づいた)。
そんなわけで約1週間、いろんな刺激を受けて帰ってきました。帰国して丸二日間ほど腑抜けになってて、ようやく元の生活に戻りつつありますが、やはりまた定期的に行きたいですね。ちなにに今回は羽田発・成田着のLCCのHKエクスプレスで、往復3万円でした。金沢から東京とたいして変わらない・・・
(秋田)